「今期は赤字だし、賃上げ促進税制の計算なんてやっても意味がないよね」
「どうせ法人税が出ないんだから、黒字になってから考えればいいや」
そんなふうに思っていませんか?
実はその思い込み、会社の将来のキャッシュを大きく失うリスクをはらんでいます。
「うちは赤字だから」と放置していると、本来なら浮かせられたはずの税金を、将来黒字化したときに何百万円も余分に支払うことになりかねません。
そこでこの記事では、会計事務所の実務目線から、「赤字の会社こそ今すぐ仕込むべき」賃上げ促進税制の正しい活用法をどこよりも分かりやすく解説します。
1枚の書類を出すか出さないかで、数年後の税金が劇的に変わる実務のリアルをお届けします。読み終わったあと、今すぐ自社の申告書を確認したくなるはずです!

赤字の会社にも大いに関係あり!「賃上げ促進税制」5年間の繰越控除ルールとは?
「当期は税金が出ない」からといって、計算をスルーしてはいけない理由
結論から言うと、当期が赤字であっても、賃上げ促進税制の計算を絶対にスルーしてはいけません。
なぜなら、令和6年度税制改正により、中小企業向けに「5年間の繰越控除制度」が新設されたからです。
これまでは「赤字の年は法人税が出ないから、税額控除もゼロで終わり」というのが税務の常識でした。
しかし現在の中小企業向けルールでは、赤字の年に頑張って従業員の給与を増やした分の控除枠を、なんと最大5年間も未来へ貯金(繰り越し)できるようになっています。
つまり、今期が赤字でも計算をして申告書に数字を残しておけば、数年後に黒字化した際、その貯金を使って将来の法人税をガツンと減らすことができるのです。
【対象企業の要件】青色申告書を提出する中小企業者等への限定ルール(資本金・従業員数の壁)
この「5年間の繰越控除」という強力なメリットを受けられるのは、以下の要件を満たす「中小企業者等」に限定されています。
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青色申告書を提出していること(白色申告は対象外です)
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資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人
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常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人
【注意!】 資本金が1億円以下であっても、大企業に完全に支配されている「みなし大企業」などは対象外となるケースがあります。まずは自社が「中小企業者等」の枠組みにしっかり入っているか、顧問税理士への確認が確実です。
【タイムライン】いつから始まった?令和8年度(2026年)の申告で絶対に知っておくべき適用期間
この繰越控除の特例は、令和6年(2024年)4月1日以降に開始する事業年度からスタートしています。
そのため、令和8年度(2026年)の税務申告を迎えている今、すでに「過去に赤字の中で賃上げした実績」が蓄積されている会社も少なくありません。
ここで注意したいのが最新の税制改正トレンドです。制度自体は複数年にわたり運用されていますが、直近の令和8年度税制改正によって、教育訓練費等に係る「上乗せ措置」が令和7年度末をもって廃止されるなど、年度ごとにルールが大きく見直されています。
常に「自社のその事業年度がいつから始まったか」を起点に、当時の正確なルールを当てはめる必要があります。
【独自シミュレーション】赤字から黒字へ転換!繰越控除で法人税がこれだけ安くなる
【事例】創業3期目でついに黒字化!元赤字メーカー「A社」のケース
文字だけではイメージしづらいと思いますので、具体的なストーリーで見てみましょう。
| 年度 | 業績(所得) | 従業員の給与 | 賃上げ促進税制の判定 |
| 1期目 | 1,000万円の赤字 | 前年比で大幅に増額! | 控除限度額:150万円(※赤字のため当期は使えず) |
| 2期目 | トントン(利益0) | 現状維持 | 対象外 |
| 3期目 | 500万円の黒字 | 通常通り支給 | 過去の貯金を活用するチャンス! |
※このシミュレーションは、前期(0期目)にすでに事業を行っていたものとして計算しています(完全な新設第1期目は、税法上の特例により前年比の増加判定ができないため原則として対象外となります)。
機械製造業を営むA社は、1期目に果敢に従業員の給与をベースアップしましたが、業績は赤字でした。
計算上は150万円の税額控除枠が生まれましたが、当然ながら1期目の法人税はゼロなので、その場では使えません。
しかし、この150万円は「繰越税額控除」としてしっかり5年間のポケットに保管されました。
【数字で比較】事前に対策していた場合 vs スルーしていた場合の納税額の差額
3期目にA社がめでたく黒字化し、本来なら「100万円の法人税」を納める必要が出た場合の比較です。
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① 1期目の赤字時に「事前に対策(申告)」していた場合
3期目の法人税100万円に対し、1期目から繰り越してきた貯金(150万円)をぶつけることができます(※ただし当期法人税額の20%が控除限度となるため、この期で使えるのは20万円)。結果、3期目の法人税は80万円に減税され、残った130万円はさらに4期目以降へ繰り越せます。
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② 1期目に「赤字だから」とスルーしていた場合
過去の貯金は「存在しないもの」として扱われるため、3期目の法人税は額面通り100万円を丸々支払うことになります。
【その差は一目瞭然!】
同じように頑張って賃上げをしたにもかかわらず、赤字の期に書類を1枚出しておかなかっただけで、最初の黒字化のタイミングから手元のキャッシュに大きな差が生まれてしまうのです。
【実務の解決策】繰越メリットを受けるための正しい申告手順と必要書類
ステップ1:当期が赤字でも「給与等支給額」の増加要件を判定する
まずは「今期は赤字だから」というフィルターを一度外し、通常通りに賃上げ要件を満たしているかを計算します。
国内の雇用者に対して支払った給与総額(雇用者給与等支給額)が、前年度と比べて「1.5%以上」または「2.5%以上」増えているかをチェックしましょう。
増減率に応じて、控除される税額の割合(15%〜最大45%)が決まります。
ステップ2:法人税申告書「別表六(二十四)」等の明細書を正しく作成する
要件を満たしていることが確認できたら、法人税の申告書と一緒に提出する専用の明細書を作成します。
主に使用するのは「別表六(二十四)」です。
ここで当期の控除限度超過額を正しく計算した上で、翌年以降は「別表六(二十四)付表」という繰越専用の明細書を使って、いくらの控除額が未処理のまま残っているかを厳密に引き継いで記録します。
ステップ3:確定申告書に添付して期日までに提出する(期限後申告のグレーゾーンへの注意喚起)
作成した別表を、確定申告書に必ず添付して税務署へ提出します。
ここで実務上、最も注意しなければならないのが「申告期限」です。
税法上、この手の税額控除特例は「期限内申告」が原則となっています。
「赤字で税金が出ないから、ちょっと申告が遅れても大丈夫だろう」と期限後申告にしてしまうと、せっかく計算した繰越枠の権利そのものが認められないリスクが非常に高くなります。
必ず期日を守りましょう。

【税務調査の落とし穴】プロが警告!1年でも「添付」を忘れたら過去の権利も即消滅する罠
税務調査官はココを見る!「赤字だから添付し忘れた」が通用しない税法の厳格ルール
ここが、会計事務所の現場だからこそお伝えできる、実務上最も恐ろしい「落とし穴」です。
1期目の赤字時に書類を出していても、2期目がトントンで計算を行わなかったからといって別表(付表)の添付を完全にサボってしまうと、1期目の繰越枠の履歴が途切れてしまいます。
税法上、この繰越控除を将来使うためには、赤字の期から実際に税金を引き下げる期まで『連続して別表を添付していること』が原則求められます。
つまり、控除を使わない2期目であっても、過去の貯金を引き継ぐための書類(別表六(二十四)付表)を毎年欠かさずに添付し続けなければならないのです。
経理担当者が頭を抱える境界線:「繰越税額控除限度超過額」を翌年以降の別表にどう引き継ぐか
実務を担当する経理の方々が最も頭を悩ませるのが、この「使えなかった控除額(繰越税額控除限度超過額)」を翌年以降の別表へどう引き継いでいくか、というパズルです。
毎年、別表の中で「何期前に発生した枠がいくら残っていて、今年どれを消費して、あと何年使えるのか」を履歴管理(管理表のローリング)していく必要があります。
これを怠ると、税務調査が入った際に「数字の根拠が不明」として否認される格好の標的になってしまいます。
給与台帳(賃金台帳)と別表の数字の不一致は、調査官的の絶好の「突っ込みどころ」
税務調査官が賃上げ促進税制をチェックする際、真っ先に行うのが「給与台帳(賃金台帳)の総額」と「申告書(別表)に記載された給与額」の突き合わせです。
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役員報酬や、役員の親族(特殊関係者)への給与が除外できているか?
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雇用調整助成金など、国から助成金をもらっている分を適切に差し引いているか?
これらの集計ミスで1円でも数字がズレていると、「要件の%を本当に満たしていたのか?」と徹底的に掘り下げられます。
赤字の期であっても、適当な概算ではなく、給与台帳と完全に一致した極めて精緻な計算が求められるのです。
まとめ:「赤字だから関係ない」は今日で卒業。次の申告から仕込むべき得する一手
最後に、今回の重要なポイントを振り返りましょう。
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赤字の年でも、賃上げしていれば最大5年間も税額控除を「貯金(繰り越し)」できる
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黒字化して適用を受ける期には、過去の繰越額を証明する「別表六(二十四)」の添付が必須
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「赤字だから後回し」で最初の発生期に申告をスルーすると、将来の減税権利は手に入らない
「赤字だから関係ない」と書類を出さずにスルーしてしまうのは、本当にもったいないことです。
数年後に会社が黒字化したとき、過去の自分のファインプレーに感謝できるよう、今から動いておきましょう。
まずは、顧問税理士の先生に「先生、うちの会社、赤字の期に賃上げした分の繰越別表(別表二十四)ってしっかりついていますか?」と、今すぐ電話やメールで確認してみることから始めてみてくださいね!